■法人は、人間のように契約する

 

株式会社などは、法人と呼ばれます。人ではないのに、人のように契約をしたり物を所有したりするからです。もちろん、法人は自分で契約書にサインしたり押印したり出来ませんんから、社長が代わりにサインしたりするわけですが。

 

筆者が塚崎パンという会社を作って社長になったとします。会社が銀行から借金をした時の借り主の署名捺印は「塚崎パン株式会社 社長 塚崎 (塚崎パンの印)」となります。この契約書は、筆者が署名捺印したものですが、筆者個人ではなく会社が借金をしたという事を示しているので、銀行は借金を取り立てるために会社の金庫を差し押さえる事はあっても、筆者個人の財布を差し押さえる事は出来ません。

 

ちなみに、筆者が会社に金を貸した場合の契約書は、以下のようになります。最初から最後まで全部筆者が書いたものですが(笑)。

甲は乙から100万円借りました。

甲:塚崎パン株式会社 社長 塚崎 (塚崎パンの印)

乙:塚崎公義 (塚崎という普通の印)

 

筆者1人の会社であれば、筆者の財布と会社の金庫を区別する必要は無いのですが、友人と金を出し合って会社を作った場合などには、筆者の財布と会社の金庫の違いは重要です。何万人もの株主が資金を出し合って作った大企業の社長が銀行から「お前が借用証書にサインしたのだから、お前の財布から100億円返せ」と言われたら困りますからね(笑)。

 

■  株式会社はバランスシートを作る

法人には、学校法人、宗教法人、株式会社、合資会社等々がありますが、経済活動で圧倒的に重要なのは株式会社なので、本稿では株式会社について記します。

 

株式会社は、株券という書類を印刷して出資してくれた人に渡します。何人かで金を出し合って会社を作った場合には、出した金額に応じて渡す株券の枚数を決めます。銀行から借金をする場合は、借用証書という書類を作成して銀行に渡します。

 

株式会社はバランスシートを作ります。バランスシートというのは、会社が何を持っているのか、それを買うための資金はどのように調達したのか、を表すものです。

 

たとえば株主から50万円集め、銀行から50万円借りて、合計100万円でパンを仕入れたとしましょう。バランスシートは以下のようになります。資本というのは株主から集めた金額、負債というのは銀行から借りた金額の事です。ここでは筆者が30万円、友人が20万円を出した事にします。

 

バランスシートは、ストックです。ストックというのは、ある時点の会社の状態を表すものです。ストックと対比されるのはフローです。「1年間で10の利益があったから、会社の財産が10増えて110になった」という場合、昨年末のストックが100、今年のフローが10、今年末のストックが110、という事になるわけです。

 

資産

 パン        100万円

負債        50万円

資本        50万円

 

■出資してくれた人は、株券を受け取って株主になる

会社を作る時に資金を出し合う事を「出資する」と言います。出資した人は、出資額に応じて株券を受け取ります。株券の持ち主は株主と呼ばれます。株主は、法律的には「会社の一部の持ち主」です。

 

株券に書いてある事は3つです。「会社の利益は株主で山分けする。これを配当と呼ぶ」「会社が解散する時は、資産を売り、負債を返し、残りは株主で山分けする」「株券1枚につき、社長の選挙で1票投票できる」です。

 

本稿では、筆者が30万円、友人が20万円出資した事になっていますので、出資額5万円あたり1枚の株券を渡すとして、筆者が6枚、友人が4枚の株券を持っていることにしましょう。会社が10万円の利益を稼げば、株券1枚あたり1万円の配当となりますから、筆者が6万円、友人が4万円を受け取ることになります。

 

会社が解散する時には、資産のパンを100万円で売って銀行からの借金50万円を返して、残った50万円を株主で山分けします。株券1枚あたり5万円ですから、筆者が30万円、友人が20万円受け取ることになるわけです。

 

社長の選挙では、筆者が6票、友人が4票ですから、筆者の意中の人が当選し、友人の投票は死票となります。配当等は持っている株数が少なくてもそれに応じた金額が受け取れるのですが、社長の選挙だけは、株券の過半数を持っている大株主がいる場合には、それ以外の株主の投票は意味が無い、という事なのですね。

 

■借用証書には、金額と期間と利率を記す

銀行に渡す借用証書には、「50万円借りました」「1年経ったら返します」「金利は3%支払います」といった事が書いてあります。ここには「会社が儲かったら」といった文言がありません。そこが株券と決定的に違うところです。

 

つまり、銀行は会社が儲かるか否かには興味が無いのです。会社が儲かるか否かに興味があるのは株主だけなのです。だから、社長の選挙には株主が投票して銀行は投票しないのです。社長が金儲けが上手い人か否かは、株主の関心事項ですからね。

 

■会社が借金を返せなかったら踏み倒す・・・「株主有限責任」

会社が儲かったら、株主が利益を山分けします。そうであれば、会社が損をした時には株主が損を分担するのか、と言えば、そうではありません。会社が損をした時には、株主は黙って見ていれば良いのです。もちろん、「会社が解散した時に山分けされる財産」が減るわけですから、決して嬉しくはありませんが、追加的に金を払わされる事は無いのです。

 

これは、会社が大損をして借金を返せなくなった場合も同様です。銀行は、株主に対して「会社が借金を返せないなら、株主が代わりに借金を返せ」と言ってはいけないという法律になっているのです。これを「株主有限責任」と呼びます。

 

株主有限責任という法律があるため、銀行は株式会社への融資に慎重になります。借り手が融資を返済する能力があるか否かをしっかり調べた上で貸すのはもちろん、担保や保証を求める事もあります。担保や保証については、別の機会に記します。

 

■株主有限責任は合理的

株主有限責任は、一見すると正義に反するようにも見えます。「株主は、会社が儲かった時は配当を受け取るのに損した時には銀行に損失を押し付けるのか」「損を出したのは、株主が選んだ社長が無能だったからではないか」というわけです。しかし、法律を作った人は、様々な事を考えているのです。

 

まずは「中小零細企業で社長が株の過半を持っているような場合には、銀行は社長の個人保証を請求するだろうから、株主有限責任は適用されないだろう」という事です。したがって、株主有限責任が問題となるのは大企業の場合でしょう。大企業の株主は、会社の事をよく知らないサラリーマン投資家なども多いので、あまり重い責任を負わせるべきではないでしょう。

 

民法の仲間(株式会社の法律を含む)の主要関心事項の1つは、「2人のうち、どちらかが酷い目に遭うとしたら、どちらに泣いてもらうべきか」という事です。会社が大損をしてしまった以上、株主か銀行のどちらかに泣いてもらうしかありません。その場合、会社の事をよく知らないサラリーマン株主よりも、会社のことをしっかり調べてから貸している銀行に泣いてもらう方がフェアだ、というわけです。

 

今一つあります。たとえば東京電力が原発事故の影響で倒産したとします。サラリーマン株主に銀行から巨額の請求書が送られ、多くのサラリーマン株主が破産したとします。そうなると、東京電力の後を継ぐ「第二東京電力」を設立しようとしても、サラリーマンは決して株を買おうとしないでしょうから、第二東京電力という会社が設立出来ないかも知れないのです。東京の人々が電気の来ない日々を過ごすのでは、日本経済は大混乱ですね。

 

仮に東京電力が倒産したとしても、サラリーマン株主が株主有限責任で守られたとすれば、彼等が失うものは当初の投資額だけです。それなら、「儲けようと思って株を買って、結局は損をした」という「良く有る話の1つ」ですから、サラリーマンたちは喜んで第二東京電力に出資することでしょう。そうなれば、無事に東京電力の後継企業が東京に電力を供給してくれるので、日本経済は安泰だ、というわけですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿は厳密性よりもわかりやすさを優先していますので、細部が不正確な場合があります。事情ご賢察いただければ幸いです。

 

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